JA共済トラブル「満期直前、勝手に解約された」 抗議に応じないJA側の説明は… 落ち込む85歳女性 2023年9月11日

 


JA共済トラブル「満期直前、勝手に解約された」 抗議に応じないJA側の説明は… 落ち込む85歳女性
2023年9月11日
不適切な契約が問題となっている農業協同組合(JA)の共済事業では、高齢者とのトラブルが目立っている。川崎市の80代女性が本紙に語った事例では、自身が知らないうちに元の契約が勝手に解約され、新たな契約に変更されていたという。JA側の契約の意向確認や商品説明が不十分だった可能性がある。(押川恵理子)

 <JA共済を巡る問題> 共済契約の過度なノルマ達成を求められたJA職員が、本来不必要な契約を自腹で結ぶ「自爆営業」が相次ぎ、農林水産省は今年2月から共済事業の監督を強化した。職員から不適切な契約の申し出があればJAは都道府県からの調査対象になる。無断契約など顧客に対する不適切な契約も各地で判明。相次ぐ不祥事を受けて政府の規制改革推進会議は今年6月、自爆営業などを防ぐためノルマ設定の見直しやハラスメント防止など抜本策を講じるよう農水省に求めた。同省は具体策を検討している。

知らない間に別契約…思い出す「はんこを貸して」

 「(契約は)ありません」。女性(85)は3年前、満期が迫る自身の契約を確認するためJAセレサ川崎に連絡すると、電話口の職員からこう告げられ驚いた。貯蓄性商品である「一時払養老生命共済」は知らないうちに解約され、その代わり、女性の次男を被共済者とする終身共済が新たに契約されていた。

 女性の疑問に対して、JA側は「養老共済の被共済者を(女性側から)変更したいと申し出があり、変更できないため解約し、終身共済に変更した。その際、養老の共済証書を紛失したため、紛失届を提出してもらって解約手続きをした」と説明した。

「代理で押印することは禁止していない」

 だが、女性は養老共済の解約を希望していないという。紛失したとされる養老共済の証書も手元にきちんと保管し、紛失届を出した覚えもない。「JA職員に『はんこを貸して』と何度か言われ、渡したことがある」と振り返る。

 本紙の取材に対して、JAセレサ川崎は「(一般論として)代理で押印することは禁止していないが、押印を渉外担当が進んですることはない」と説明。この川崎の個別事例については「契約者本人にしか答えない」とコメントした。

◆「適切な契約ではない」

女性側は元の契約に戻すよう再三抗議したが、協議は平行線。望んでいない終身共済は解約し、掛け金の総支払額より少ない解約返戻金しか受け取れなかった。女性は「夜も昼も眠れないほど落ち込んだ。この問題を広めないと、どんどん高齢者がターゲットにされてしまう」と懸念。女性の長男(60)も「このままではJAの逃げ得だ」と憤る。

金融商品取引の被害に詳しい荒井哲朗弁護士は「女性は共済の変更を意図していなかった。JA職員が十分な説明を尽くしたかは相当の疑問があり、適切な契約ではない。高齢者の契約は親族への確認を徹底するべきだ」と指摘した。

 高齢者に対する不適切な契約では、JAにしみの(岐阜県大垣市)で女性(100)の親族らに加入の意向を直接確認せずに共済契約を結んでいたことが発覚。JA側が契約が不適切だったことを認め、一部契約の掛け金を返金した。このほか、1人暮らしの高齢者が不要な契約に加入させられていたという情報なども本紙に寄せられている。

   ◇    ◇

近年、対策が進む一方で、契約に関する消費者相談は年1万件

高齢化社会がどんどん進む中、金融業界が高齢者と金融商品で契約する際、経済状況をきちんと踏まえた上で商品の説明を丁寧に行うことが課題だ。2022年、全国の消費生活センターに寄せられた共済と保険の契約に関する相談は約1万件あり、4割が70歳以上からだった。集計した国民生活センターによると、説明不足や認識の食い違いが目立つ。

 金融庁は14年、高齢者への不適切な契約を防ぐため、保険会社向けの監督指針を改正。農林水産省も共済事業の監督指針を変えた。主な指針の内容は、親族ら同席者にも商品内容を説明するほか、契約に向けて説明した担当者とは別の職員が、高齢者の意向に沿った内容かどうかを再確認することなどを求めた。

 これを受け、各保険会社や全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)は対応強化のルールをまとめた。JA共済連は現在、高齢者の親族が同席したことなどを契約者に記録してもらうほか、最終的な契約内容も親族に伝えることにしている。

 しかし、ルールを作るだけでは十分ではない。19年に発覚したかんぽ生命保険の不正販売では、高齢者に不利益な契約を結ばせる話法が、保険募集人の間で共有されていた。投資信託の販売で、ゆうちょ銀行の直営店の約9割が高齢者の健康状態や金融商品への理解度を確かめる社内規定を守っていなかったことが社内調査で判明した。営業現場でのルール浸透と抜け穴がないかという継続したチェックも重要となっている。

    ◇

 「ニュースあなた発」は、読者の皆さんの投稿や情報提供をもとに、本紙記者が取材し、記事にする企画です。身の回りのモヤモヤや疑問から不正の告発まで、広く情報をお待ちしています。東京新聞ホームページの専用フォームや無料通信アプリLINE(ライン)から調査依頼を受け付けています。秘密は厳守します。



2023.06.15
# 金融政策決定会合
# 日銀

その時、現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身
鷲尾 香一

2人の経済学の天才が激突
6月15日から2日間にわたって行われている日銀政策決定会合だが、マーケットは概ね「大規模緩和の継続」を予想している。

筆者もその見通しには同意するが、ちょうどひと月前の5月15日に開かれた政府・経済経済財政諮問会議で、今後の植田和男日本銀行総裁の政策に大きな影響を与えるのではないかと感じるやり取りがあった。

前編『ノーベル経済学賞「有力日本人候補」が日銀・植田総裁に噛みついた!いったい何があったのか…?』でお伝えしたとおり、植田総裁の経済学のライバルで、プリンストン大学の清滝信宏教授が植田総裁の意見に噛みついたのだ。

本稿では、植田総裁と清滝氏の二人の世界的知性がぶつかり合った会議の中身について詳しくお伝えしていこう。

ライバルの直言は「緩和はさっさとやめろ」
5月15日の経済財政諮問会議に出席した植田総裁は、物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。

つまり、これまで通り秋口から物価は下がっていくという見通しを示し、対規模緩和を継続した4月の政策決定会合の内容を改めて説明した。

これに対して、経済財政諮問会議に有識者の1人として出席した清滝教授は、植田総裁と真っ向から対立する意見を出したのだ。

清滝教授は、世界経済の現状を「インフレが進行しており、欧米では政策金利の大幅な引上げにもかかわらず、2%を超えるインフレが数年は続くと予想されている」とした上で、日本についても「円安と輸入物価の高騰から、目標値を超えるインフレが続いている」と分析。

その上で、たとえ物価が植田総裁の見通し通りに1〜2%に下がったとしても「インフレ率が1~2%程度に定着すれば、量的・質的緩和は解除すべきである」と指摘した。

植田総裁が量的緩和の解除に慎重なのは、国内で金利が上がりはじめれば日本国債を大量に保有する金融機関に含み損が発生し、アメリカのシリコンバレー銀行のように経営難に陥る地銀が出かねないという懸念もあるからだ。住宅ローンを組む多くの人にも大きなダメージとなりかねない。

低金利に慣れ切った今の日本で金融政策を正常化すると、大きな痛みを伴いかねないのだ。

しかし、グローバル標準の経済学者である清滝教授は発言がたちどころにマーケットに影響する植田総裁と違って、なれ合い的な“日本の空気”など気にする必要などないのだろう。

長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘したのだ。

もう「大規模緩和」の効果はない?
ちなみに、清滝教授がノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われるゆえんは、1997年に日本のバブル崩壊を説明する「清滝・ムーアモデル」を英経済学者のジョン・ムーア氏と共同で示したことによる。この理論は、リーマンショックでも実証され、金融危機の対応にも貢献したという。

日本のバブル崩壊では、土地や株などの資産価格が暴落した。銀行は不動産などを担保に融資をおこなうが、担保価値が下がることで金融機関の融資もまた停滞する。これが不況を招き、さらに資産価値が下落するという負のスパイラルが不況を長期化させる。

これを精密に分析して解明したのが「清滝・ムーアモデル」で、「失われた20年」とか「失われた30年」と言われる日本の長期停滞を言い当てた。

日本停滞の根本原因を知り尽くす清滝教授だけに、経済財政諮問会議で次のような苦言も呈している。

「量的・質的金融緩和は持続的成長につながらない」
「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」

つまり、量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ。

ライバルの経済学者の直言は、同じく経済学のセオリーを知り尽くす植田総裁の政策にこれからどのように影響するだろうか。

さらに連載記事『業火は日本の金融界にも飛んでくる…!米銀破綻が経営を直撃しかねない「危ないニッポンの銀行」の実名』では、日銀の政策変更も影響しかねない金融機関の実態についてお伝えしていこう。





2023.03.11
# 経済
# 人口減少
# 社会
「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

森永 卓郎


出生数80万人割れ、物価高・低賃金、増負担時代……人口激減&家計大苦難時代に私たちはどう生き延びることができるのか、日本の企業はどうすべきか?

話題の新刊『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』(角川新書)の上梓した経済アナリスト・森永卓郎さんと、累計100万部突破シリーズの最新刊『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)著者のジャーナリスト・河合雅司さんが、日本の大問題と厳しい現実について語り合った。
『未来の年表』は本命で『増税地獄』は万馬券?
森永:河合さんの新刊『未来の年表 業界大変化』を読んで思ったのですが、この『未来の年表』シリーズは、すごく誠実にデータと向き合い、きちんと当たると思わせる予測を提示されていて、いつも感心するのです。

河合:ありがとうございます。森永さんの新刊『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』も、タイトルで少しギョッとしましたが、現下の厳しい状況をベースに、個人レベルでどうやって生き抜いていけばいいのかを教えてくれる本だと思いました。

森永:今回の『増税地獄』は、これまで『相続地獄』(光文社新書)、『長生き地獄』(角川新書)と出してきた『〇〇地獄』シリーズという位置づけなのですが、私は河合さんとは性格がたぶん逆なので、どうしてもセンセーショナルな方向にいってしまいます。競馬でいうと、河合さんの『未来の年表』シリーズが本命なのに対して、私の『〇〇地獄』シリーズは万馬券狙いみたいな感じでしょうか(笑)

河合:じゃあ森永さんは一発当たると大きいのですね(笑)

さて森永さんは、いまの日本が直面している最大の問題はどこにあるとお考えなのでしょうか?

森永:またセンセーショナルなことを言うと思われそうですが、私はいまの資本主義が維持できるのはあと2年程度だと思っています。それに伴って、東京という大都市が続けてきた繫栄もあと2年ほどで終わりを告げるでしょう。だから「みんなで東京を捨てて逃げたほうがいい」と言っているのです。

河合:著書のなかでも、ご自身で自給自足に近い生活を実践されていることが書かれていましたね。

森永:究極的なことを言えば、首都直下型地震が発生するリスクが大きいと思っているんです。1923年に起きた関東大震災からちょうど100年の周期を迎えた今年か来年あたりに地震が来る確率はかなり高いはずなのですが、この話をしてもあまりウケない(笑)

河合:地震がいつ起きるのかについては、さすがに私も予測できません(笑)

森永:それはそれとして、私はいまの世界経済は1929年10月24日「暗黒の木曜日」に始まった世界恐慌の状況に似てきていると思っています。岸田政権が増税による財政健全化や金融引き締めなどを過剰に進めると、当時の大恐慌ほどではないにしても、小さな恐慌程度はいつ起きてもおかしくないでしょう。

河合:なるほど。私の場合は森永さんほどにドラスティックな変化は想定しておらず、人口動態から「将来こういう社会になる」という予測可能性の高いシナリオを書いてきました。ご存じのとおり、人口の未来は「予測」ではなく、過去の出生状況の「結果」です。今年生まれた子どもの数が、20年後の20歳人口になるわけですから、人口の未来はほぼ外れることがありません。

森永:おっしゃる通りです。だからこそ河合さんの『未来の年表』シリーズの内容は本命なのですね。

資本主義がダメになる「3つの理由」
河合:そのうえで森永さんにお聞きしたいのは、大地震などのような突発的な自然災害が起きなかったとして、それでも資本主義があと2年ほどでダメになると考える理由は何でしょうか?

森永:理由としては3つあります。

まず1つ目に、所得格差がとてつもないレベルまで拡大してしまったことです。国際NGOが2019年に発表したデータが話題になりましたが、世界人口のうち所得の低い半数の38億人の総資産と、最も裕福な26人の富豪が同額の資産をもっているというのです。コロナ禍を経て、所得格差はさらに拡大していることでしょう。

河合:日本でも格差が拡大していることを森永さんはご指摘されていますね。

森永:はい。日本では、所得に対して税金や社会保障費をどれだけ支払っているかを示す「国民負担率」がジリジリと上昇しており、2021年度では48%にまで増えているのです。働いて10万円稼いでも、税金と社会保険料で4万8000円が徴収され、手取りはたった5万2000円しかないというのが庶民の現実です。

一方で、年間所得が1億円を超えるような富裕層は、株式等の譲渡所得の割合が増えるため、相対的に税負担が減るのです。お金持ちほど税負担が小さいという日本のシステムでは、格差はさらに拡大するでしょう。

河合:上場株式の売却益などにかかる税率は一律20%ですからね。所得税よりもはるかに安い税率となります。

続いて2つ目の理由はなんでしょう?

森永:2つ目には環境問題があります。グローバル資本主義の進展により世界中で工業化が進んだ結果、温室効果ガス排出による地球温暖化の問題が顕在化しているのです。人類への深刻な影響が出るかどうかの境目は「産業革命前からの気温上昇を1.5度」のラインだと言われていますが、私はそれを超えてしまうのも時間の問題ではないかと思っています。マルクスも、資本主義が環境を破壊することを予見していました。

最後に3つ目の理由として、若い人たちの考え方の変化を挙げたいと思います。いわゆるブラック企業や、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)に嫌気がさして、都会での労働を捨てて田舎で暮らそうとする若者が出てきました。

河合:私も日本企業に蔓延るブルシット・ジョブには批判的な立場です。労働生産性を下げる要因となっているだけでなく、人の働く意欲を削ぎますからね。

森永:もちろんまだ少数です。しかし一つの兆候として、ふるさと回帰支援センターの相談件数がコロナ前から急増していて、今では年間5万件程度にまでなっていることが挙げられます。都会で暮らすには生活コストが高いので、資本の奴隷にならざるを得ません。であれば、田舎で自由に暮らしたほうがいいと考える若者が増えてきているのです。

これらの動きからも、資本主義という仕組み自体をひっくり返す大きな転換期が近づいていると感じるのです。

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田舎に分散して住んでいては社会が成り立たない?
河合:特に3つ目のご指摘は興味深いところですね。ただ、地方移住はよいのですが、それぞれが思い思いの場所に移り住むと人口減少社会においては問題が生じます。

今後の日本は、人口減少によって労働者も消費者も減っていきます。人口減少による国内需要の縮小と、高齢化に伴う消費量の縮小、さらに冒頭で森永さんがご指摘されたような可処分所得の縮小まで重なる、「トリプルでの国内マーケット縮小」が日本を襲うのです。

こうした状況下で、人々が分散して住んでいたのでは商圏がより速く縮小し、立地できない企業や商店が増えます。それでは生活もビジネスが成り立たなくなるので、私は「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を少しでも維持していく必要性を『未来の年表』シリーズでも訴えてきました。

森永:移住するにしても個々人が思い思いに田舎に住むのではなく、全国各地の「極」となる都市に、なるべく集中して住んでもらおうという考え方ですね。それらの都市はどのくらいの規模をイメージされているのでしょうか?

河合:国交省は、人口10万人程度の商圏であれば大半の業種が存続可能だとしています。10万人都市をつくれということではなく、複数の自治体でこれぐらいの商圏規模を維持できれば生活に不可欠なサービスを概ね維持し得るとのシミュレーションです。全国で道路網が整備されましたし、デジタル技術も使えばかなり多くの地域で10万人商圏を形成することはできると思います。

ところで、人口が急激に減少していく中で「地方」に移住していくというのは、まさに森永さんが実践されているような自給自足的なライフスタイルへと転換していくことでもありますよね。果たして多くの人にとって、そうした暮らし方は実践可能なのでしょうか?

つづきはこちら:日本の衝撃的な未来に備える…「1億総農民・1億総アーティスト」の時代がやってくるかもしれない
3年かけて実現した「自産自消」の生活
河合:人口が急激に減っていく中で都市から「地方」に移住する選択は魅力的である半面、物質的な便利さを享受できなくなりますよね。いざ実行に移すとなると、多くの人はためらってしまうのではないかと思うのですが。地方移住してみたものの理想と現実のギャップの大きさから大都市に戻る人も少なくありません。森永さんご自身の経験からいかがでしょうか?

森永:私は埼玉県所沢市の西部に、もう40年近く住んでいます。都心までは1時間半以上かかりますが、住宅費は10分の1以下です。都心からこのくらいの距離に位置する地域を、都会と田舎の中間という意味で「トカイナカ」と呼んでいます。

わが家は、近い将来に経済恐慌が起きても生活に困らないように、この3年間でさまざまな社会実験をして、「自産自消」のライフスタイルを構築しました。今では、畑に行けば農作物があるので食べ物には困りませんし、電気は太陽光パネルで発電できます。


河合:それはすごい! 徹底していますね。

森永:「あとは水だ」と思って井戸を掘ったのですが、うちの庭には水源がなかったようで断念しました。でも、隣の農家から井戸をお借りすることができるので大丈夫です。

河合:大規模な自然災害や経済恐慌がいつ到来しても、森永さんは生活には困らないですね。

森永:ウクライナ戦争によって、グローバルなサプライチェーン(供給連鎖)に頼りっきりの生活がいかに危険かを、多くの人が感じたのではないでしょうか。自分が食べる食料と自分が使うエネルギーくらいは自分で作ろうと「自産自消」を考えてみることは大事です。自分で作れないものは地域で賄う「地産地消」で、さらに地域でも無理なら国という単位で「国産国消」でなんとか供給する。よく見るとウクライナ戦争以前から、こうした国内回帰の動きは出てきていました。

河合:そうした動きも、グローバル資本主義への一種のアンチテーゼですよね。

「1億総農民」「1億総アーティスト」の時代
河合:でも、いわゆる自給自足的な意味での豊かさは実現できたとしても、人々が資本主義で享受できていた恩恵を簡単に手放せるとはなかなか思えません。特に、文化やエンターテインメントを楽しむといった面ではどうでしょうか?

森永:インターネットがつながる通信環境さえあれば、田舎にいてもエンタメを楽しむことは十分できますよ。私も田舎に引っ越してから、畑仕事の合間の時間でテレビやラジオの番組に出演したりしていましたが、自宅からネットに接続さえすれば支障なくこなすことができます。コロナ禍でリモートワークが普及したことも追い風になりました。

河合:それは結局、東京のような大都市で、通信インフラを含めてハードやソフトを作り出す人々が一定数いることを前提によって成り立つ考え方だと思うのですが。東京のような都市そのものが消滅してしまえば、エンタメのコンテンツを創り出す人、送り出す人もいなくなってしまうのではないでしょうか? エンタメのコンテンツというのは多くの才能のぶつかり合いから生み出されることが多いと思うのですが。

森永:そこが、河合さんと私の見方が違うところなのでしょうね。

森永:私がイメージする近未来に起こりうる変化は、前回も申し上げたように資本主義自体がもうすぐ終わりを迎えるので、大都市に住む人もほとんどいなくなります。そして、何かを作り出す人たちも都市に集まるのではなく全国に分散して存在し、個々人が各地から好きなように発信するようになるのではないでしょうか。

河合:そうすると、テレビ局や出版社といったメディアも、完全に個人の手に分散するということですか?たしかに各種SNSやYouTubeなど、あらゆる人が自由に発信できる時代ではありますが。

森永:ですから誰もが「1億総農民」であり、同時に「1億総アーティスト」になるという未来像です。私の息子も金融システムのエンジニアをやっていますが、自宅ですべての仕事を行っています。AI(人工知能)が人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)は、これまで2045年頃だと見られていましたが、もっと早く到来するのではないでしょうか。

河合:そうなったら、製造現場や事務の仕事もAIに制御されたロボットが担うようになり、人間はコンテンツやシステムの作成に集中できるかもしれませんね。日本は若者が減って国際競争力の落ち込みが危惧されますし、本当に「1億総アーティスト」という社会が実現するのか私には分かりませんが、実現するなるならば個人が発信するなかから生まれてくるイノベーションに期待したいところです。

森永:「1億総アーティスト」の社会では、高齢者でもアイデアやオリジナリティ次第で存在感を示し、仕事にしていくことも十分に可能です。

河合:日本はあと25年ほどで、65歳以上の高齢者が総人口の4割近くを占めるようになります。高齢者の新たな創造力を、高齢社会を活性化させるチャンスとしていきたいですね。

森永:河合さんにはぜひ、『未来の年表 エンターテインメント編』を書いてほしいです。

河合:ありがとうございます。一方で、資本主義から距離を置くにしても、大半の高齢者にとっては、現実問題としておカネの面での心配があると思いますが、その点はどうですか?

森永:年金は現在、平均的な夫婦で月額約22万円ですが、私の推計では30年後に月額約13万円まで減るでしょう。わが家の社会実験も、「夫婦の年金月額13万円で食べていけるのか?」が大きなテーマでした。

結論としては、「トカイナカ」で自産自消の暮らしをすれば、十分に食べていけます。高い家賃を払って都会で暮らす生活にしがみつかなければ、月13万円で余裕をもって暮らせるのです。

河合:過疎化が進む「地方」では、水道や電気などの生活インフラを維持するコストを少人数で負担することになり、1世帯あたりの負担額が上昇していくと見込まれています。さらに市役所や役場の行政サービスも低下が予想されます。職員の人手が不足する一方、住民の減少に加えて高齢化が進むため住民税などの税収の目減りが予想されるからです。「地方」に住めば住宅費用こそ大都市より割安ですが、実際にはかなり出費がかさむことでしょう。

そうしたこともあって私は過疎地域への移住には懐疑的な見方をしております。地方移住するならば、ある程度の商圏規模がある地方都市が現実的ではないのかと。都心から1時間半程度の「トカイナカ」は将来的にもある程度の人口が維持される見通しですので、移住先としてもっと注目されていいと思います。

有事の際には「1億総戦闘員」になる?
森永:ウクライナ戦争の勃発により、国防に関する議論も盛んです。

河合さんは『未来の年表 業界大変化』のなかで、国防について「60代の自衛官が80代を守る」という未来像を示されていたのが印象的でした。

河合:国民の「安全・安心」を守る自衛官や警察官、さらに消防士や海上保安官といった職種は、若さが求められることもあって、出生数減少の影響をダイレクトに受けてしまいます。なかでも自衛隊は、過去10年で一度も定数を満たしたことがなく、すでに慢性的な人手不足に陥っているのです。

森永:人手不足に対応しようと、自衛官の定年年齢を段階的に引き上げていることなども、ご本では書かれていました。

河合:防衛省は雇用年齢を単に引き上げるのではなく、年配者を「現場」で活用することも考えています。まさに60代の「退職自衛官」中心の部隊が国防の最前線に立ち、80~90代の国民を守るために戦う……。そんなシュールな光景が近い将来、現実になるかもしれません。

森永:なので私はよく「自衛隊に日本を守ってもらうのはやめよう。有事には『1億総戦闘員』になって皆で戦おう」と言っているのです。でも、そんな話をすると「お前みたいな奴が前線にいても足手まといだ」と批判されてしまう。そこで私は以前ベトナムに行った際に、正規軍の迷彩服やヘルメット、軍靴など、一通りの装備を調達してきたのです(笑)

河合:本当ですか? 森永さんはミニカーだけでなく、そんなものまでコレクションされているとは驚きです(笑)

森永:もちろん法律違反になるので、武器はもっていません。あとは国が拳銃でもマシンガンでもドローンでも、武器を与えてくれさえすれば、私はいつでも戦うつもりです。

河合:頼もしいですね。私は、もし日本が有事となり外国が攻めてくる状況になったら、いまの日本人には戦わずに逃げる人のほうが多いのではないかと、悲観的な予想をしていました。侵略者に対抗するだけのエネルギーがこの国には残っていないのではないかと。ですが、森永さんのご決意を伺って、まだまだ希望を捨ててはいけないと感じました(笑)